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日本ワクチン学会理事長
川崎医科大学 小児科学
中野 貴司 |
2023年10月22日に開催された理事会で理事長を拝命いたしました。日本ワクチン学会が、会員の皆様や社会から期待される学術団体としての役割を十分に果たし、かつ、より発展することができるよう精一杯務めたいと存じます。皆様方のお力添えを、どうぞよろしくお願い申し上げます。
人類にとって大いなる脅威であった天然痘は、1980年に地球上からの根絶が宣言されました。患者発生を監視するサーベイランスを強化し、予防ワクチンである種痘を普及することで、私たちはひとつの病原体の封じ込めに歴史上初めて成功しました。そして、天然痘に対するサーベイランスや検疫は不要となり、ワクチンの定期接種も中止できました。すなわち、根絶達成は大きな費用対効果を生み出したのです。
医師になって4年足らずの頃、西アフリカのガーナで2年間暮らしました。ガーナのスタッフとチームを組んで村を定期的に巡回し、妊婦の体重や血圧を測り、5歳未満小児の身長や体重を測定し、スケジュールに従ってワクチンを接種し、発熱やマラリア、下痢症の簡単な治療を行うことが日常業務でした。自分が巡回していた村には、ガーナ国内で多数発生していた麻疹やポリオの患者がほとんどいませんでした。医師になりたての頃、「予防」にあまり興味は無く、重い病気を治せる「治療」に華があると思っていましたが、ワクチンの効果を再認識しました。
天然痘に次ぐ根絶のターゲットであるポリオは、まだゴールに辿り着けません。生ワクチン株の変異による病原性復帰と、世界各地の紛争がポリオ対策の妨げとなっています。ポリオ対策従事者に危害が加えられるという悲しい出来事もありました。また、COVID-19パンデミックにより、ワクチンは誰にとってもより身近な存在となりましたが、安全性への懸念をはじめとする様々な議論は、しばしば人々を分断する原因になっています。天然痘を根絶し、ガーナの村で麻疹やポリオを駆逐してきたワクチン本来の目的は、分断ではなく、健康という一つの目的目指して協力できる手段であったはずです。
2023年10月、本学会と日本臨床ウイルス学会が初めて合同で学術集会を開催いたしました。これから3年先まで、同様に両学会が合同学術集会を開催することが決定しております。連携と調和を重んじ、基礎研究者、製造・開発研究者、疫学研究者、医師や臨床領域各職種、行政職などワクチンの研究と実務に携わる全ての者が協調して、わが国のワクチン学の発展に貢献できる学会を目指したいと思います。皆様方のご支援を重ねてお願い申し上げます。
2023年11月
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